風潮音樂的春天佇陀位

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盡日尋春不見春,芒鞋踏遍隴頭雲。
歸來笑拈梅花嗅,春在枝頭已十分。

 

也因此喜歡芥川龍之介的這個短篇

 

 杜子春

1某年春天黃昏。
唐朝京城洛陽西門下,有個年輕人心不在焉地仰望著天空。
年輕人名叫杜子春,本來是富家弟子,現在因蕩盡家財,淪落成過一天算一天的落魄漢。
當時的洛陽,極為昌盛,是個天下無可匹比的京畿,大道上車水馬龍,人潮熙來攘往。在如亮油般照映在西門上的夕陽光輝中,可見老人的羅沙帽、土耳其女人的金耳環、裝飾在白馬上的彩絲羈繩,都在不斷流動,那景象美得像一幅畫。
但是,杜子春依然將身子靠在西門牆壁上,心不在焉地眺望著天空。天空上,細長的月亮,宛如指甲痕跡,幽白地浮睡在繚繞的霧靄中。
「天暗了,肚子也餓了,而且不管到哪裡,大概都找不到今晚能容身的地方了……與其這樣活著,不如乾脆跳河自殺要快活點吧。」
杜子春從剛剛起就一直如此漫無邊際地思索著。
然後有個不知從何處冒出來的獨眼老人,停頓在他面前。他沐浴著夕陽餘輝,將長長的影子刻印在門上,一直凝視著杜子春的臉。
「你在想什麼?」老人趾高氣揚地問。
「我嗎?我在想,今晚沒地方睡,不知該怎麼辦。」
由於老人問得很唐突,杜子春不禁俯下眼皮,率直地回答。
「原來如此。那太可憐了。」
老人思考了一陣子,然後伸手指著映射在大道上的夕陽餘輝道:
「那麼我告訴你一件好事。如果你現在站在夕陽中發現地上能照映出你的影子,今晚半夜時就挖挖你影子的頭部地方。一定會有滿車的黃金埋在那裡的。」
「真的?」
杜子春聽後大吃一驚,揚起一直俯下著的眼皮。不可思議的是,那老人已不知去向,週遭也不見他的影子。只是,掛在上空的月亮比先前更皓潔,往來不息的行人道上,已有兩三隻性急的蝙蝠在翩翩飛舞著。
2
杜子春在一夜之間,化身為洛陽獨一無二的大富翁。因為他真得聽從那老人的話,於夜半悄悄挖掘夕陽映照出的影子頭部,挖出了一堆比一輛大車更多的黃金。
變成暴發戶的杜子春,馬上買了一棟豪華的房屋,開始過著不比玄宗皇帝遜色的奢侈生活。買蘭陵的美酒啦、桂州的龍眼啦、在庭院內栽植日易四色的牡丹啦、飼養 幾隻白孔雀啦、收集寶玉啦、剪裁錦繡啦、製造香木的車子啦、訂製象牙椅子啦,若要詳細述說他的奢侈,那這個故事是永遠都無法結束的。
一些平日在路上遇見也形同陌路人的朋友們,在聽聞杜子春致富的消息後,不管朝晚都來找杜子春玩了。而且人數日漸增多,半年過後,所有洛陽聞名的才子與美 女,幾乎沒有一個不是杜子春的座上客。杜子春每天陪著這些客人舉行盛宴,而且酒宴盛大得無可比擬。隨便舉個例子來說,當杜子春在金杯斟滿來自西洋的葡萄 酒,出神觀看著印度魔術師表演吞刀特技時,他身邊就環繞著有二十個女人,其中十個在髮上插飾著翡翠蓮花,十個在髮上插飾著瑪瑙牡丹花,吹彈著曲調輕快的笛 歌與古箏。
只是,再如何富有的大富翁,金錢總是有止境的,奢華如杜子春者,一年兩年過去後,也逐漸開始捉襟見肘起來。等他把錢用盡後,才瞭解人心的薄情寡義,直至昨 天還天天來報到的人,今天路過門前竟也懶得進來打聲招呼了。到了第三年春天,當杜子春又恢復成一文不名的窮小子時,廣闊的洛陽,竟找不到一家肯讓他借宿過 夜的人家。別說是借宿,甚至連施捨一杯水的人家都找不到。
於是,某日黃昏,杜子春再度逛到洛陽西門下,呆然地眺望著天空,不知何去何從。
然後那個獨眼老人也跟往昔一般,不知從何處又現身出來。
「你在想什麼?」
杜子春一看到老人,即慚愧地低下頭,說不出話來。只是,老人這天也親切地反覆問了同樣的話,他只好又一次誠惶誠恐地答道︰
「因為我今天沒地方可睡,不知該怎麼辦?」
「原來如此,那太可憐了。那麼我告訴你一個好辦法。現在你站到夕陽下,若你的影子映照在地上,你便趁著夜間挖掘影子胸部的地方,那裡一定埋藏有滿車子的黃金。」
老人說完,又瞬間消失在人潮中。
翌日,杜子春又於一夜之間變成洛陽獨一無二的大富翁。同時也開始過他為所欲為的奢華日子。種植在庭院的牡丹花、沉睡在牡丹花中的白孔雀、來自印度會表演吞刀的魔術師……一切如從往昔。
因此他挖掘出的那些滿車數不盡的黃金,經過三年後,便蕩然無存了。
3
「你在想什麼?」
獨眼老人第三次來到杜子春面前,又向他發出同樣的問話。此時的杜子春,當然又是呆呆佇立在西門下,眺望著幽幽穿射晚霞的月牙。
「我嗎?我今晚沒地方可睡,正在想著該怎麼辦?」
「原來如此,那真是可憐。那麼我告訴你一個好辦法。現在你站到夕陽下,若你的影子映照在地上,你便趁著夜間挖掘影子肚子的地方,那一定埋藏有滿車子的 ……」
「不,我不要錢了。」
「不要錢了?哈哈,那麼你已經厭倦奢華日子了?」
老人以詫異的眼神,凝視著杜子春。
「不,我不是厭倦了奢華日子,而是厭煩了人這個東西。」
杜子春現出憤怒的神色,冷淡地回答。
「有趣﹗有趣﹗你為什麼厭煩起人了?」
「人都是薄情寡意的。當我是個富豪時,他們拼命奉承、阿諛,一旦變得貧窮,連個笑臉都不肯賞。想到這點,即使再度變成富豪,又有什麼用呢?」
老人聽杜子春如此說,忽然嘻嘻笑了起來。
「原來如此。沒想到你這麼年輕,竟然懂得這些道理。那麼,你今後是想安然過著貧窮的生活了?」
杜子春躊躇了一會兒。不過,馬上斷然抬起眼睛,申訴似地望著老人。
「我現在已無法再過貧窮生活了,所以我想做您的徒弟,修行仙術。您不用隱瞞了,您是個道高德隆的神仙吧﹗如果不是神仙,您絕對不可能讓我在一夜之間變成天下第一的富豪的。請您當我的師傅,傳授那不可思議的仙術給我吧﹗」
老人顰著眉,像在考慮什麼似地,然後莞爾笑著。
「不錯,我叫鐵冠子,是住在峨嵋山的仙人。最初看到你時,覺得你是個懂道理的人,所以才兩次讓你成為大富翁。如果你真渴望做仙人,我就收你為徒弟好了。」
杜子春當然喜出望外。老人話未說完,即匍匐在地上,向鐵冠子叩了幾個響頭。
「你不用那麼道謝。雖然我收你為徒弟,但你能否成為出色的仙人,還在於你自己……總之,你先跟我到峨嵋山深處來再說吧。哦,恰好地上有一根竹杖,咱們現在就騎著這根竹杖飛越天空吧。」
鐵冠子拾起地上那根青竹,口裡念著咒文,和杜子春一起如騎馬般跨上那根青竹。
結果真是不可思議,竹杖立即像一條飛龍般,猛烈地衝上天空,翱翔在晴朗的春日夕陽中,一路往峨嵋山方向飛去。
杜子春心驚膽戰,畏縮地俯瞰著腳下。只見青色的山巒隱藏在夕陽餘輝中,那個洛陽西門(大概早已堙沒在晚霞了),已無影無蹤了。一會兒,鐵冠子讓風吹拂著蒼白的鬢髮,引吭高歌起來。
朝遊北海暮蒼梧
袖裡青蛇膽氣粗
三入岳陽人不識
郎吟飛過洞庭湖
4
載著兩人的青竹,不久飄落在峨嵋山。
青竹落在一塊俯臨深谷的廣闊岩石上,可能高度甚高,懸掛在半空中的北斗星,看起來竟有飯碗般大小,正閃爍著光芒。本來就是人跡罕見的深山,周遭當然靜寂無聲。唯一幽幽飄入耳裡的,是彎彎曲曲生長在岩後懸崖上的一株松樹,隨著夜風晃動枝葉的沙沙響聲。
兩人來到岩石上後,鐵冠子讓杜子春坐在懸崖下,對他說︰
「我要上天去拜謁王母,你就坐在這兒等我回來。我不在時,可能會有各種妖怪出現要誘騙你,不過,不管發生什麼事,你絕對不能開口說話,只要你開口說一句話,你便不能變成仙人。懂嗎?總之不管再如何天崩地裂,你都得保持沉默。」
「您放心,我絕對不會出聲。即使要我的命,我也會保持沉默的。」
「是嗎?聽你這樣說,我就放心了。好,我走了。」
老人跟杜子春告別后,又跨上竹杖,飛向在夜裡也能看得出陡峭山巒的上空,筆直消失了。
杜子春獨自坐在岩石上,靜靜地眺望著星空。約莫過了半小時,深山的夜氣涼颼颼穿透單薄衣服時,突然上空傳來叱罵的聲音。
「誰在那裡?」
不過,杜子春遵從仙人的關照,不開口回答。
豈知,不一會兒,又響起同樣的聲音。
「不回答的話,立即要你的命﹗」那個聲音嚴厲地恐嚇著。
杜子春當然還是沉默著。
剎時,一隻不知從何處攀上的老虎,眼光炯炯地跳躍到岩石上,對著杜子春怒目而視,仰頭咆哮了一聲。不但如此,頭上的松枝也同時激烈地左右搖晃,後面懸崖頂上,又出現一條四斗大的白蛇,伸吐著火焰般的紅舌,一步步逼近來了。
但,杜子春依然穩如泰山地端坐著。
老虎和蛇,如搶食一個食餌般,彼此窺視、對峙著一會兒。然後,幾乎是同時撲上杜子春。就在杜子春不知會被老虎牙撕裂,或被白蛇吞嚥,小命即將嗚呼哀哉時, 老虎和白蛇竟如煙霧一般,隨著夜風消失了。之後,只見懸崖上的松樹仍和先前一樣,搖晃著樹枝沙沙作響。杜子春舒了一口氣,暗中期盼著再度將會發生的事。
這時,一陣風吹起,如黑墨般的烏雲籠罩上空,淡紫色的閃電冷不防撕裂黯夜,雷聲隆隆作響。不,不只是雷聲,瀑布般的豪雨也同時猛然嘩嘩傾瀉下來。杜子春在 這種天崩地裂的處境中,依然面無懼色地端然坐著。風聲、飛濺的雨滴、無休無止的閃電光……峨嵋山一時似乎將傾覆了。然後突然響起一陣震耳欲聾的霹靂聲,只 見一道深紅的火柱,從上空的烏雲漩渦中筆直落在杜子春的頭上。
杜子春不覺堵住耳朵,匍伏在岩石上。但他隨即睜開眼睛,發現天空依然晴朗,飯碗大的北斗星,也依然聳峙在前方的山巒上,閃閃發光著。看來,方才的暴風雨,老虎和白蛇,都是些趁鐵冠子不在時出來作祟的妖怪罷了。想通後,杜子春這才放心地揩去額上的冷汗,再坐正在岩石上。
只是,就在他噓聲尚未吐完,一個身穿金鎧甲、身高足有三丈、神態肅穆的神將又出現在他面前。神將手持三叉利戟,不容分說就將戟尖指向杜子春的胸膛,怒目瞪眼地叱罵著︰
「喂﹗你到底是誰?這個峨嵋山從天地開闢以來,即是我居住的地方。你竟膽敢獨自跑到這裡,看來你一定不是個普通人物,若不想死,趕快說明原由。」
不過,杜子春仍是遵照老人的話,緘口不語。
「不答話……是吧。好,不想答就不答,隨你便。可是你要知道我那些眾小嘍羅是會把你能剁成肉醬的。」
神將高舉三叉戟,向對面的山巒上空呼喚。剎時,黑暗的夜空裂成兩半,無數的神兵如烏雲般佈滿天空,而且手上都閃耀著槍刀,好像即將要嘶殺過來般。
杜子春眼見這個景象,情不自禁想叫出聲,但又想起鐵冠子的話,只好拼命緊抿著嘴。神將看他紋風不動,大發雷霆。
「你這個頑固的家伙﹗再不答話,真要你的命了﹗」
神將說時遲那時快,三叉戟一閃,即一刺戳死了杜子春。然後發出連峨嵋山都會搖搖欲墜的朗笑,消失無蹤。當然,那些無數的神兵,也隨著響徹四周的夜風聲,如夢一般消失無蹤了。
北斗星又冷森森地映照在岩石上。懸崖上的松樹依然搖晃著樹枝沙沙作響。但,杜子春早已氣絕地仰躺在地上。
5
杜子春的身軀雖仰躺在岩石上,可是,他的靈魂卻靜靜地脫離了軀體,降落到地獄底層了。
這個世界與地獄之間,有一條叫做暗穴道的路,那裡終年都處於黑暗中,四周刮嘯著冰雪一般冷冽的烈風。杜子春如同一片樹葉,在烈風中飄飄蕩蕩,最後飄到一座掛著『森羅殿』橫匾的巍峨殿宇。
殿堂前一群鬼嘍囉,一見到杜子春,趕忙圍住他,把他押到台階之前。台階上有個身穿深黑色衣袍、頭戴著金王冠的閻羅王,威武地睥睨著四周。杜子春心想,這大概就是那個眾所皆知的閻羅王,再想到不知將會遭遇些什麼事,只好戰戰兢兢地跪下來。
「小子,你為什麼坐在峨嵋山上?」
閻羅王的聲音如雷聲般,自台階上傳下來。杜子春本想馬上開口回答,但又想起『絕對不能開口』這句鐵冠子的誡語,只好又低垂著頭,啞巴一般緘默著。
閻羅王揚起手中的鐵笏,倒豎著臉上的鬍鬚,盛氣凌人地怒吼︰
「你以為此處是什麼地方?快快回答,否則,我就讓你立即嚐嚐地獄的苦刑。」
可是,杜子春依然緊抿著嘴。閻羅王見狀,轉頭向眾嘍囉們粗聲厲氣吩咐了什麼。
眾嘍囉們站直身子,再一把抓起杜子春,飛往森羅殿的上空。
正如眾所皆知一樣,地獄裡除了刀山與血池外,還有火焰之谷的焦熱地獄和冰海的極寒地獄,並排在黝黑的天空下。眾嘍囉們將杜子春一次又一次地拋往種種地獄 裡。可憐的杜子春,不但被劍刺穿胸膛、被火焰燒焦臉頰、被拔掉舌頭、被剝掉皮、被鐵杵搗錘、被放在油鍋裡炸、被毒蛇吞噬腦漿、被雄鷹啄食雙眼……
若要一一數說他所遭受的痛苦,那真是不勝枚舉,總之,他遭受了所有的痛苦。盡管如此,杜子春依然倔強地咬緊牙根,緊抿著嘴不說一句話。
這使眾嘍囉們目瞪口呆,啞口無言。於是又一次挾持著杜子春飛過暗夜般的天空,來到森羅殿之前,再把杜子春拖拉到台階下,向殿堂上的閻羅王齊聲奏道︰
「這個罪人,無論如何都不肯說話。」
閻羅王皺著眉思索片刻,然後靈機一動,吩咐道︰
「這個男子的父母一定被判下了畜牲道,你們馬上把他們押到這裡來。」
眾嘍囉們頓時乘風飛往地獄的上空,然後再如流星般驅趕著兩匹獸,降落到森羅殿前。杜子春看到這兩匹獸,大吃一驚。因為那雖說是兩匹形影寒愴的瘦馬,臉孔卻是連做夢也忘不了的雙親容貌。
「小子,你為何坐在峨嵋山上?快從實招來﹗不然,這次就要讓你的父母嚐嚐痛苦的滋味了。」
杜子春雖如此被恐嚇著,但仍不出聲。
「你這個不孝子﹗你為了自己的立場,就忍心讓父母承受痛苦嗎?」
閻羅王怒聲大罵,聲音洪亮得森羅殿要崩坍似的。
「打﹗嘍囉們﹗把這兩匹畜牲打得肉爛骨碎﹗」
眾嘍囉們齊聲道『是』,手執鐵鞭站起來,毫不容情地從四面八方鞭打起兩匹馬。鐵鞭『嘶』、『嘶』地鳴響著,如雨一般紛紛落在兩匹馬身上,把馬打得皮開肉綻。馬……淪落成畜牲的父母,痛苦地扭曲著身子,血淚盈眶,慘不忍睹地嘶叫著。
「怎樣?你還不肯招認嗎?」
閻羅王暫時讓眾嘍囉們停止鞭打,再一次催促杜子春回答。這時,兩匹馬已經肉爛骨碎,奄奄一息地倒臥在台階之前。
杜子春緊閉著雙眼,拼命想著鐵冠子的話。這時他耳邊傳來微弱的、勉強可聽出是聲音的唏噓︰
「你不用擔心,不管我們會變得怎樣,只要你能幸福,那是最好不過的。大王再怎麼逼,只要你不願開口,你就沉默著吧。」
這聲音,確實是那久違的母親的聲音啊﹗杜子春情不自禁睜開眼。他看見一匹馬無力地倒在地上,悲切地深深凝望著他的臉。母親在這種水深火熱的痛苦中,仍眷顧 著兒子的心,對於被鞭打的事,完全沒有一絲怨懟之情。這和那些當你是大富翁時,便來阿諛你,當你是一文不名的窮光蛋時,便不理睬你的世人比起來,是多麼難 得的溫情,又是多麼堅韌的決心呵﹗杜子春忘了老人的警戒,蹣跚奔至老馬身邊,雙手環抱著瀕死的老馬脖子,淚珠涔涔地喊了一聲︰
「娘﹗」……
6
杜子春被自己的聲音驚醒,回過神來,才發現自己仍然沐浴著一身夕暉,呆然地佇立在洛陽西門下。煙霞渺渺的天空,白色的月牙,川流不息的車水馬龍……
一切都和未到峨嵋山時一樣。
「怎麼樣?你即使成為我的徒弟,也很難成為仙人吧?」 獨眼老人微笑著。
「不能。不過雖不能成為仙人,我反而慶幸自己沒有成為仙人。」
杜子春眼裡依然噙著淚水,衝動地握住老人的手︰
「即使能成為仙人,我在那地獄的森羅殿之前,看著父母苦捱著鞭打,我也是無法保持沉默的。」
「如果你還保持沉默的話……」
鐵冠子突然很嚴肅地凝望著杜子春︰
「如果你還保持沉默的話,我打算當下就斷絕你的命根子……你大概已經不想再當神仙了吧。至於大富翁,你也早就厭膩了。那麼,你以後想當什麼呢?」
「不管當什麼,我都打算做個真實的人,過著真正的生活。」
杜子春的聲音,充滿一種至今為止從未出現過的爽朗口吻。
「好,不要忘記你現在說的這句話。那,從今天起,我不會再跟你見面了。」
鐵冠子一邊說著,一邊跨開腳步,然後突然又停住腳步,回頭望著杜子春,彷彿不勝愉快地拋下一句︰
「喔,對了,我剛想起,我在泰山南麓有一間房屋。那房屋和田地都一起送給你,你馬上去住吧。現在這個時節,那屋子四周,大概已開滿了桃花吧﹗」
--大正九年(1920)六月--




     一

 或(ある)春の日暮です。
 唐(とう)の都洛陽(らくよう)の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。
 若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費(つか)い尽して、その日の暮しにも困る位、憐(あわれ)な身分になっているのです。
 何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、繁昌(はんじょう)を極(きわ)めた都ですから、往来にはまだしっきりなく、人や車が通っていまし た。門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗(しゃ)の帽子や、土耳古(トルコ)の女の金の耳環(みみわ)や、白馬(しろう ま)に飾った色糸の手綱(たづな)が、絶えず流れて行く容子(ようす)は、まるで画のような美しさです。
 しかし杜子春は相変らず、門の壁に身を凭(もた)せて、ぼんやり空ばかり眺(なが)めていました。空には、もう細い月が、うらうらと靡(なび)いた霞(かすみ)の中に、まるで爪の痕(あと)かと思う程、かすかに白く浮んでいるのです。
「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなさそうだし――こんな思いをして生きている位なら、一そ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない」
 杜子春はひとりさっきから、こんな取りとめもないことを思いめぐらしていたのです。
 するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目眇(すがめ)の老人があります。それが夕日の光を浴びて、大きな影を門へ落すと、じっと杜子春の顔を見ながら、
「お前は何を考えているのだ」と、横柄に声をかけました。
「私(わたし)ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」
 老人の尋ね方が急でしたから、杜子春はさすがに眼を伏せて、思わず正直な答をしました。
「そうか。それは可哀そうだな」
 老人は暫(しばら)く何事か考えているようでしたが、やがて、往来にさしている夕日の光を指さしながら、
「ではおれが好(い)いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中に立って、お前の影が地に映ったら、その頭に当る所を夜中(よなか)に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金(おうごん)が埋(う)まっている筈(はず)だから」
「ほんとうですか」
 杜子春は驚いて、伏せていた眼を挙(あ)げました。ところが更に不思議なことには、あの老人はどこへ行ったか、もうあたりにはそれらしい、影も形も見当 りません。その代り空の月の色は前よりも猶(なお)白くなって、休みない往来の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠(こうもり)が二三匹ひらひら舞っていま した。

     二

 杜子春は一日の内に、洛陽の都でも唯(ただ)一人という大金持になりました。あの老人の言葉通り、夕日に影を映して見て、その頭に当る所を、夜中にそっと掘って見たら、大きな車にも余る位、黄金が一山出て来たのです。
 大金持になった杜子春は、すぐに立派な家(うち)を買って、玄宗(げんそう)皇帝にも負けない位、贅沢(ぜいたく)な暮しをし始めました。蘭陵(らん りょう)の酒を買わせるやら、桂州(けいしゅう)の竜眼肉(りゅうがんにく)をとりよせるやら、日に四度(よたび)色の変る牡丹(ぼたん)を庭に植えさせ るやら、白孔雀(しろくじゃく)を何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、錦(にしき)を縫わせるやら、香木(こうぼく)の車を造らせるやら、象牙 (ぞうげ)の椅子を誂(あつら)えるやら、その贅沢を一々書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならない位です。
 するとこういう噂(うわさ)を聞いて、今までは路(みち)で行き合っても、挨拶(あいさつ)さえしなかった友だちなどが、朝夕遊びにやって来ました。そ れも一日毎(ごと)に数が増して、半年ばかり経(た)つ内には、洛陽の都に名を知られた才子や美人が多い中で、杜子春の家へ来ないものは、一人もない位に なってしまったのです。杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又盛(さかん)なことは、中々(なかなか)口には尽されませ ん。極(ごく)かいつまんだだけをお話しても、杜子春が金の杯(さかずき)に西洋から来た葡萄酒(ぶどうしゅ)を汲(く)んで、天竺(てんじく)生れの魔 法使が刀を呑(の)んで見せる芸に見とれていると、そのまわりには二十人の女たちが、十人は翡翠(ひすい)の蓮(はす)の花を、十人は瑪瑙(めのう)の牡 丹の花を、いずれも髪に飾りながら、笛や琴を節(ふし)面白く奏しているという景色なのです。
 しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家の杜子春も、一年二年と経つ内には、だんだん貧乏になり出しました。そうすると人 間は薄情なもので、昨日(きのう)までは毎日来た友だちも、今日は門の前を通ってさえ、挨拶一つして行きません。ましてとうとう三年目の春、又杜子春が以 前の通り、一文無しになって見ると、広い洛陽の都の中にも、彼に宿を貸そうという家は、一軒もなくなってしまいました。いや、宿を貸すどころか、今では椀 (わん)に一杯の水も、恵んでくれるものはないのです。
 そこで彼は或日の夕方、もう一度あの洛陽の西の門の下へ行って、ぼんやり空を眺めながら、途方に暮れて立っていました。するとやはり昔のように、片目眇(すがめ)の老人が、どこからか姿を現して、
「お前は何を考えているのだ」と、声をかけるではありませんか。
 杜子春は老人の顔を見ると、恥しそうに下を向いたまま、暫くは返事もしませんでした。が、老人はその日も親切そうに、同じ言葉を繰返しますから、こちらも前と同じように、
「私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」と、恐る恐る返事をしました。
「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好(い)いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その胸に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから」
 老人はこう言ったと思うと、今度もまた人ごみの中へ、掻(か)き消すように隠れてしまいました。
 杜子春はその翌日から、忽(たちま)ち天下第一の大金持に返りました。と同時に相変らず、仕放題な贅沢をし始めました。庭に咲いている牡丹の花、その中に眠っている白孔雀、それから刀を呑んで見せる、天竺から来た魔法使――すべてが昔の通りなのです。
 ですから車に一ぱいにあった、あの夥(おびただ)しい黄金も、又三年ばかり経つ内には、すっかりなくなってしまいました。

     三

「お前は何を考えているのだ」
 片目眇(すがめ)の老人は、三度杜子春(どとししゅん)の前へ来て、同じことを問いかけました。勿論(もちろん)彼はその時も、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞を破っている三日月の光を眺めながら、ぼんやり佇(たたず)んでいたのです。
「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしようかと思っているのです」
「そうか。それは可哀そうだな。ではおれが好いことを教えてやろう。今この夕日の中へ立って、お前の影が地に映ったら、その腹に当る所を、夜中に掘って見るが好い。きっと車に一ぱいの――」
 老人がここまで言いかけると、杜子春は急に手を挙げて、その言葉を遮(さえぎ)りました。
「いや、お金はもういらないのです」
「金はもういらない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまったと見えるな」
 老人は審(いぶか)しそうな眼つきをしながら、じっと杜子春の顔を見つめました。
「何、贅沢に飽きたのじゃありません。人間というものに愛想(あいそ)がつきたのです」
 杜子春は不平そうな顔をしながら、突慳貪(つっけんどん)にこう言いました。
「それは面白いな。どうして又人間に愛想が尽きたのだ?」
「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従(ついしょう)もしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。柔(やさ)しい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです」
 老人は杜子春の言葉を聞くと、急ににやにや笑い出しました。
「そうか。いや、お前は若い者に似合わず、感心に物のわかる男だ。ではこれからは貧乏をしても、安らかに暮して行くつもりか」
 杜子春はちょいとためらいました。が、すぐに思い切った眼を挙げると、訴えるように老人の顔を見ながら、
「それも今の私には出来ません。ですから私はあなたの弟子(でし)になって、仙術(せんじゅつ)の修業をしたいと思うのです。いいえ、隠してはいけませ ん。あなたは道徳の高い仙人でしょう。仙人でなければ、一夜(ひとよ)の内に私を天下第一の大金持にすることは出来ない筈です。どうか私の先生になって、 不思議な仙術を教えて下さい」
 老人は眉(まゆ)をひそめたまま、暫くは黙って、何事か考えているようでしたが、やがて又にっこり笑いながら、
「いかにもおれは峨眉山(がびさん)に棲(す)んでいる、鉄冠子(てっかんし)という仙人だ。始めお前の顔を見た時、どこか物わかりが好さそうだったか ら、二度まで大金持にしてやったのだが、それ程仙人になりたければ、おれの弟子にとり立ててやろう」と、快く願(ねがい)を容(い)れてくれました。
 杜子春は喜んだの、喜ばないのではありません。老人の言葉がまだ終らない内に、彼は大地に額をつけて、何度も鉄冠子に御時宜(おじぎ)をしました。
「いや、そう御礼などは言って貰うまい。いくらおれの弟子にしたところが、立派な仙人になれるかなれないかは、お前次第で決まることだからな。――が、と もかくもまずおれと一しょに、峨眉山の奥へ来て見るが好(い)い。おお、幸(さいわい)、ここに竹杖(たけづえ)が一本落ちている。では早速これへ乗っ て、一飛びに空を渡るとしよう」
 鉄冠子はそこにあった青竹を一本拾い上げると、口の中(うち)に咒文(じゅもん)を唱えながら、杜子春と一しょにその竹へ、馬にでも乗るように跨(また が)りました。すると不思議ではありませんか。竹杖は忽ち竜のように、勢(いきおい)よく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角へ飛んで行 きました。
 杜子春は胆(きも)をつぶしながら、恐る恐る下を見下しました。が、下には唯青い山々が夕明(ゆうあか)りの底に見えるばかりで、あの洛陽の都の西の門 は、(とうに霞に紛れたのでしょう)どこを探しても見当りません。その内に鉄冠子は、白い鬢(びん)の毛を風に吹かせて、高らかに歌を唱(うた)い出しま した。

朝(あした)に北海に遊び、暮(くれ)には蒼梧(そうご)。 袖裏(しゅうり)の青蛇(せいだ)、胆気粗(たんきそ)なり。 三たび岳陽に入れども、人識(し)らず。 朗吟して、飛過(ひか)す洞庭湖(どうていこ)。      

四  

二人を乗せた青竹は、間もなく峨眉山へ舞い下(さが)りました。  そこは深い谷に臨んだ、幅の広い一枚岩の上でしたが、よくよく高い所だと見えて、中空(なかぞら)に垂れた北斗の星が、茶碗(ちゃわん)程の大きさに 光っていました。元より人跡(じんせき)の絶えた山ですから、あたりはしんと静まり返って、やっと耳にはいるものは、後(うしろ)の絶壁に生(は)えてい る、曲りくねった一株の松が、こうこうと夜風に鳴る音だけです。  二人がこの岩の上に来ると、鉄冠子は杜子春を絶壁の下に坐らせて、 「おれはこれから天上へ行って、西王母(せいおうぼ)に御眼にかかって来るから、お前はその間ここに坐って、おれの帰るのを待っているが好(い)い。多分 おれがいなくなると、いろいろな魔性(ましょう)が現れて、お前をたぶらかそうとするだろうが、たといどんなことが起ろうとも、決して声を出すのではない ぞ。もし一言(ひとこと)でも口を利(き)いたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟をしろ。好(い)いか。天地が裂けても、黙っているのだぞ」と 言いました。 「大丈夫です。決して声なぞは出しません。命がなくなっても、黙っています」 「そうか。それを聞いて、おれも安心した。ではおれは行って来るから」  老人は杜子春に別れを告げると、又あの竹杖に跨って、夜目にも削ったような山々の空へ、一文字に消えてしまいました。  杜子春はたった一人、岩の上に坐ったまま、静(しずか)に星を眺めていました。するとかれこれ半時(はんとき)ばかり経って、深山の夜気が肌寒く薄い着 物に透(とお)り出した頃、突然空中に声があって、 「そこにいるのは何者だ」と、叱りつけるではありませんか。  しかし杜子春は仙人の教(おしえ)通り、何とも返事をしずにいました。  ところが又暫くすると、やはり同じ声が響いて、 「返事をしないと立ちどころに、命はないものと覚悟しろ」と、いかめしく嚇(おど)しつけるのです。  杜子春は勿論黙っていました。  と、どこから登って来たか、爛々(らんらん)と眼を光らせた虎(とら)が一匹、忽然(こつぜん)と岩の上に躍(のぼ)り上って、杜子春の姿を睨(にら) みながら、一声高く哮(たけ)りました。のみならずそれと同時に、頭の上の松の枝が、烈(はげ)しくざわざわ揺れたと思うと、後(うしろ)の絶壁の頂から は、四斗樽(しとだる)程の白蛇(はくだ)が一匹、炎のような舌を吐いて、見る見る近くへ下りて来るのです。  杜子春はしかし平然と、眉毛(まゆげ)も動かさずに坐っていました。  虎と蛇とは、一つ餌食(えじき)を狙(ねら)って、互に隙(すき)でも窺(うかが)うのか、暫くは睨合いの体(てい)でしたが、やがてどちらが先ともな く、一時に杜子春に飛びかかりました。が虎の牙(きば)に噛(か)まれるか、蛇の舌に呑(の)まれるか、杜子春の命は瞬(またた)く内に、なくなってしま うと思った時、虎と蛇とは霧の如く、夜風と共に消え失(う)せて、後には唯、絶壁の松が、さっきの通りこうこうと枝を鳴らしているばかりなのです。杜子春 はほっと一息しながら、今度はどんなことが起るかと、心待ちに待っていました。  すると一陣の風が吹き起って、墨のような黒雲が一面にあたりをとざすや否や、うす紫の稲妻がやにわに闇を二つに裂いて、凄(すさま)じく雷(らい)が鳴 り出しました。いや、雷ばかりではありません。それと一しょに瀑(たき)のような雨も、いきなりどうどうと降り出したのです。杜子春はこの天変の中(な か)に、恐れ気(げ)もなく坐っていました。風の音、雨のしぶき、それから絶え間ない稲妻の光、――暫くはさすがの峨眉山も、覆(くつがえ)るかと思う位 でしたが、その内に耳をもつんざく程、大きな雷鳴が轟(とどろ)いたと思うと、空に渦(うず)巻いた黒雲の中から、まっ赤な一本の火柱が、杜子春の頭へ落 ちかかりました。  杜子春は思わず耳を抑えて、一枚岩の上へひれ伏しました。が、すぐに眼を開いて見ると、空は以前の通り晴れ渡って、向うに聳(そび)えた山々の上にも、 茶碗ほどの北斗の星が、やはりきらきら輝いています。して見れば今の大あらしも、あの虎や白蛇と同じように、鉄冠子の留守をつけこんだ、魔性の悪戯(いた ずら)に違いありません。杜子春は漸(ようや)く安心して、額の冷汗(ひやあせ)を拭(ぬぐ)いながら、又岩の上に坐り直しました。  が、そのため息がまだ消えない内に、今度は彼の坐っている前へ、金の鎧(よろい)を着下(きくだ)した、身の丈(たけ)三丈もあろうという、厳(おご そ)かな神将が現れました。神将は手に三叉(みつまた)の戟(ほこ)を持っていましたが、いきなりその戟の切先(きっさき)を杜子春の胸(むな)もとへ向 けながら、眼を嗔(いか)らせて叱りつけるのを聞けば、 「こら、その方は一体何物だ。この峨眉山という山は、天地開闢(かいびゃく)の昔から、おれが住居(すまい)をしている所だぞ。それも憚(はばか)らず たった一人、ここへ足を踏み入れるとは、よもや唯の人間ではあるまい。さあ命が惜しかったら、一刻も早く返答しろ」と言うのです。  しかし杜子春は老人の言葉通り、黙然(もくねん)と口を噤(つぐ)んでいました。 「返事をしないか。――しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの眷属(けんぞく)たちが、その方をずたずたに斬(き)ってしまう ぞ」  神将は戟を高く挙げて、向うの山の空を招きました。その途端に闇がさっと裂けると、驚いたことには無数の神兵が、雲の如く空に充満(みちみ)ちて、それ が皆槍(やり)や刀をきらめかせながら、今にもここへ一なだれに攻め寄せようとしているのです。  この景色を見た杜子春は、思わずあっと叫びそうにしましたが、すぐに又鉄冠子の言葉を思い出して、一生懸命に黙っていました。神将は彼が恐れないのを見 ると、怒(おこ)ったの怒らないのではありません。 「この剛情者め。どうしても返事をしなければ、約束通り命はとってやるぞ」  神将はこう喚(わめ)くが早いか、三叉の戟を閃(ひらめ)かせて、一突きに杜子春を突き殺しました。そうして峨眉山もどよむ程、からからと高く笑いなが ら、どこともなく消えてしまいました。勿論この時はもう無数の神兵も、吹き渡る夜風の音と一しょに、夢のように消え失せた後だったのです。  北斗の星は又寒そうに、一枚岩の上を照らし始めました。絶壁の松も前に変らず、こうこうと枝を鳴らせています。が、杜子春はとうに息が絶えて、仰向(あ おむ)けにそこへ倒れていました。      


五  

杜子春の体は岩の上へ、仰向けに倒れていましたが、杜子春の魂は、静に体から抜け出して、地獄の底へ下りて行きました。  この世と地獄との間には、闇穴道(あんけつどう)という道があって、そこは年中暗い空に、氷のような冷たい風がぴゅうぴゅう吹き荒(すさ)んでいるので す。杜子春はその風に吹かれながら、暫くは唯木(こ)の葉のように、空を漂って行きましたが、やがて森羅殿(しんらでん)という額(がく)の懸(かか)っ た立派な御殿の前へ出ました。  御殿の前にいた大勢の鬼は、杜子春の姿を見るや否や、すぐにそのまわりを取り捲(ま)いて、階(きざはし)の前へ引き据えました。階の上には一人の王様 が、まっ黒な袍(きもの)に金の冠をかぶって、いかめしくあたりを睨んでいます。これは兼ねて噂(うわさ)に聞いた、閻魔(えんま)大王に違いありませ ん。杜子春はどうなることかと思いながら、恐る恐るそこへ跪(ひざまず)いていました。 「こら、その方は何の為(ため)に、峨眉山の上へ坐っていた?」  閻魔大王の声は雷(らい)のように、階の上から響きました。杜子春は早速その問に答えようとしましたが、ふと又思い出したのは、「決して口を利(き)く な」という鉄冠子の戒(いまし)めの言葉です。そこで唯頭(かしら)を垂れたまま、唖(おし)のように黙っていました。すると閻魔大王は、持っていた鉄の 笏(しゃく)を挙げて、顔中の鬚(ひげ)を逆立てながら、 「その方はここをどこだと思う? 速(すみやか)に返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責(かしゃく)に遇(あ)わせてくれるぞ」と、威 丈高(いたけだか)に罵(ののし)りました。  が、杜子春は相変らず唇(くちびる)一つ動かしません。それを見た閻魔大王は、すぐに鬼どもの方を向いて、荒々しく何か言いつけると、鬼どもは一度に畏 (かしこま)って、忽(たちま)ち杜子春を引き立てながら、森羅殿の空へ舞い上りました。  地獄には誰でも知っている通り、剣(つるぎ)の山や血の池の外にも、焦熱地獄という焔(ほのお)の谷や極寒(ごくかん)地獄という氷の海が、真暗な空の 下に並んでいます。鬼どもはそういう地獄の中へ、代る代る杜子春を抛(ほう)りこみました。ですから杜子春は無残にも、剣に胸を貫かれるやら、焔に顔を焼 かれるやら、舌を抜かれるやら、皮を剥(は)がれるやら、鉄の杵(きね)に撞(つ)かれるやら、油の鍋(なべ)に煮られるやら、毒蛇に脳味噌(のうみそ) を吸われるやら、熊鷹(くまたか)に眼を食われるやら、――その苦しみを数え立てていては、到底際限がない位、あらゆる責苦(せめく)に遇(あ)わされた のです。それでも杜子春は我慢強く、じっと歯を食いしばったまま、一言(ひとこと)も口を利きませんでした。  これにはさすがの鬼どもも、呆(あき)れ返ってしまったのでしょう。もう一度夜(よる)のような空を飛んで、森羅殿の前へ帰って来ると、さっきの通り杜 子春を階(きざはし)の下に引き据えながら、御殿の上の閻魔大王に、 「この罪人はどうしても、ものを言う気色(けしき)がございません」と、口を揃(そろ)えて言上(ごんじょう)しました。  閻魔大王は眉をひそめて、暫く思案に暮れていましたが、やがて何か思いついたと見えて、 「この男の父母(ちちはは)は、畜生道(ちくしょうどう)に落ちている筈だから、早速ここへ引き立てて来い」と、一匹の鬼に言いつけました。  鬼は忽ち風に乗って、地獄の空へ舞い上りました。と思うと、又星が流れるように、二匹の獣(けもの)を駆り立てながら、さっと森羅殿の前へ下りて来まし た。その獣を見た杜子春は、驚いたの驚かないのではありません。なぜかといえばそれは二匹とも、形は見すぼらしい痩(や)せ馬でしたが、顔は夢にも忘れな い、死んだ父母の通りでしたから。 「こら、その方は何のために、峨眉山の上に坐っていたか、まっすぐに白状しなければ、今度はその方の父母に痛い思いをさせてやるぞ」  杜子春はこう嚇(おど)されても、やはり返答をしずにいました。 「この不孝者めが。その方は父母が苦しんでも、その方さえ都合が好ければ、好(い)いと思っているのだな」  閻魔大王は森羅殿も崩(くず)れる程、凄(すさま)じい声で喚(わめ)きました。 「打て。鬼ども。その二匹の畜生を、肉も骨も打ち砕いてしまえ」  鬼どもは一斉に「はっ」と答えながら、鉄の鞭(むち)をとって立ち上ると、四方八方から二匹の馬を、未練未釈(みしゃく)なく打ちのめしました。鞭は りゅうりゅうと風を切って、所嫌(きら)わず雨のように、馬の皮肉を打ち破るのです。馬は、――畜生になった父母は、苦しそうに身を悶(もだ)えて、眼に は血の涙を浮べたまま、見てもいられない程嘶(いなな)き立てました。 「どうだ。まだその方は白状しないか」  閻魔大王は鬼どもに、暫く鞭の手をやめさせて、もう一度杜子春の答を促しました。もうその時には二匹の馬も、肉は裂け骨は砕けて、息も絶え絶えに階(き ざはし)の前へ、倒れ伏していたのです。  杜子春は必死になって、鉄冠子の言葉を思い出しながら、緊(かた)く眼をつぶっていました。するとその時彼の耳には、殆(ほとんど)声とはいえない位、 かすかな声が伝わって来ました。 「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何と仰(おっしゃ)っても、言い たくないことは黙って御出(おい)で」  それは確(たしか)に懐しい、母親の声に違いありません。杜子春は思わず、眼をあきました。そうして馬の一匹が、力なく地上に倒れたまま、悲しそうに彼 の顔へ、じっと眼をやっているのを見ました。母親はこんな苦しみの中にも、息子の心を思いやって、鬼どもの鞭に打たれたことを、怨(うら)む気色(けし き)さえも見せないのです。大金持になれば御世辞を言い、貧乏人になれば口も利かない世間の人たちに比べると、何という有難い志でしょう。何という健気 (けなげ)な決心でしょう。杜子春は老人の戒めも忘れて、転(まろ)ぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬の頸(くび)を抱いて、はらはらと涙を落 しながら、「お母(っか)さん」と一声を叫びました。…………      


六  

その声に気がついて見ると、杜子春はやはり夕日を浴びて、洛陽の西の門の下に、ぼんやり佇(たたず)んでいるのでした。霞んだ空、白い三日月、絶え間な い人や車の波、――すべてがまだ峨眉山へ、行かない前と同じことです。 「どうだな。おれの弟子になったところが、とても仙人にはなれはすまい」  片目眇(すがめ)の老人は微笑を含みながら言いました。 「なれません。なれませんが、しかし私(わたし)はなれなかったことも、反(かえ)って嬉しい気がするのです」  杜子春はまだ眼に涙を浮べたまま、思わず老人の手を握りました。 「いくら仙人になれたところが、私はあの地獄の森羅殿の前に、鞭を受けている父母を見ては、黙っている訳には行きません」 「もしお前が黙っていたら――」と鉄冠子は急に厳(おごそか)な顔になって、じっと杜子春を見つめました。 「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。――お前はもう仙人になりたいという望(のぞみ)も持っていまい。大 金持になることは、元より愛想がつきた筈(はず)だ。ではお前はこれから後、何になったら好(い)いと思うな」 「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」  杜子春の声には今までにない晴れ晴れした調子が罩(こも)っていました。 「その言葉を忘れるなよ。ではおれは今日限り、二度とお前には遇(あ)わないから」  鉄冠子はこう言う内に、もう歩き出していましたが、急に又足を止めて、杜子春の方を振り返ると、 「おお、幸(さいわい)、今思い出したが、おれは泰山(たいざん)の南の麓(ふもと)に一軒の家を持っている。その家を畑ごとお前にやるから、早速行って 住まうが好い。今頃は丁度家のまわりに、桃の花が一面に咲いているだろう」と、さも愉快そうにつけ加えました。
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